この3年間に何が起こったか?

着工戸数下げ止まりも厳しい持家市場

持家月次着工が前年を下回ること34ヶ月、長い間、沈み続けていたマイナス圏からようやく抜け出した。今年10月の持家着工は前年から9.0%増の19,705戸。ただ前年を上回ったとは言え、着工戸数自体は決して大きなものではない。3年前の10月持家着工からは3,000戸以上減少しており、26.5%減と大きな落ち込みである。前年からは跳ね上がったものの、2万戸には届いておらず、これで2024年度の持家着工は1度も2万戸を超えることがない可能性が高まった。
 
■持家月次着工と直近3年前減少率の推移
持家月次着工と直近3年前減少率の推移

持家需要を左右する物価と賃金

持家月次着工が前年を割り始めたのは、3年前の2021年12月からである。それから約3年の間、一体何が起こっていたか。持家着工がマイナス圏に沈む少し前の21年9月から消費者物価指数が総合でプラスに転じ始めた。22年に入ると物価指数は一気に2%台に乗せ、年末には4%台まで上昇した。

企業物価指数も21年に入ると上昇基調を強め、21年10月から23年2月までの17ヶ月もの間、8%を上回る水準で推移した。住宅業界を震撼させたウッドショックはこの時期より少し前から始まっており、企業物価指数の木材価格は21年5月には一足先に前年比で二桁上昇となり、21年9月から22年5月の9ヶ月間は、前年比で50%以上の上昇を示した。これらの指標が全て持家着工の減少に結び付くわけでなないが、ウッドショック、消費者物価上昇(インフレ)が起こった後に、持家着工の減少期が始まったことは事実である。つまり消費者物価指数と持家着工の直近3年間の動向は逆相関の関係が表れており、実質賃金と持家着工のマイナス期が近しい動きを見せていたのとほぼ一致する。

物価の動向と住宅市場には関連性があるはずで、物価上昇が常態化していくのであれば、持家着工を支えるカギは実質賃金の上昇である。賃上げによる継続的な実質賃金上昇は欠かせない。株高の資産効果も富裕層には効き、住宅市場を上向かせる一つの力にはなっていたと思われるが、一般の一次取得層にとっては住宅購入のきっかけになるようなプラス要因とはなっていない。

この3年間はコロナ禍に加え、インフレと金融正常化という、激しい市場環境変化が起こった。持家着工はその間、沈み続けて今、少しだけ上向きの兆しを見せた。中長期的に新築持家市場は縮小へ向かう中ではあるが、底打ちが見えたことは、多難の2025年へ向けてのせめてもの明るさである。
 
■物価と持家着工の逆相関関係推移
物価と持家着工の逆相関関係推移
 

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